遺言の撤回
民法1022条には遺言者はいつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができると定められています。
従って遺言の方式に従っていれば前の遺言書の内容を後の遺言で撤回することも可能です。
複数の遺言書が存在していた場合の遺言の効力
遺言者の死亡後に複数の遺言書が見つかった場合に、どの遺言書が有効かは基本的には「最も新しく作成された遺言書」になります。
ただし、後の遺言の内容が前の遺言の内容と重複していなければ前の遺言も有効です。
遺言書の作成日を確認しましょう
まずは遺言書に記載されている遺言の作成日を確認しましょう。
遺言書は作成の日付が新しいものが有効になります。
遺言書には作成した日付を記載しなければならないことになっていますので、遺言書の作成の日付を確認しましょう。
自筆証書遺言で、遺言書の作成日が存在しない遺言や日にちが吉日と書かれている遺言書(令和2年11月吉日)は無効な遺言になります。
遺言書の内容を確認しましょう
次に遺言書に記載されている遺言の内容を確認しましょう。
民法1023条には前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと定められています。
あくまでも後の遺言の内容に抵触している部分のみが撤回したものとみなされるのであって前の遺言全体を撤回したとみなされるわけではありません。
参考 民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
- 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす
- 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
前の遺言が後の遺言と抵触するケース
「同じ財産について書かれている」
前の遺言で財産Xを長男Aに相続させる旨の内容の遺言
後の遺言で財産Xを長女Bに相続させる旨の内容の遺言
この場合は前の遺言が後の遺言と抵触しているので後の遺言で前の遺言の内容を撤回したものとみなされます。
簡単にいうと前の遺言と後の遺言の内容が両立できない(財産Aはひとつしかないので長女Bに相続させることによって長男Aには相続させることはできなくなる)ので強制的に前の遺言を撤回したことにするということです。
前の遺言が後の遺言と抵触しないケース
「異なる財産について書かれている」
前の遺言で財産Xを長男Aに相続させる旨の内容の遺言
後の遺言で財産Yを長女Bに相続させる旨の内容の遺言
この場合は前の遺言が後の遺言と抵触していないので後の遺言で前の遺言の内容を撤回したものとみなされません。
簡単にいうと前の遺言と後の遺言の内容が両立できる(財産Xを長男Aに相続させても財産Yを長女Bに相続させることができる)ので前の遺言と後の遺言それぞれ有効となります。
異なる種類の遺言の場合
普通方式の遺言で多いのは自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、この異なる種類の二つの遺言書が複数見つかった場合にも上記の結論に違いはありません。
公正証書遺言の「公正」という文字がなんとなく優先しそうに見えてしまいいますが、遺言の種類によって優劣はありません。
つまり公正証書遺言が前の遺言書で後の遺言が自筆証書遺言の場合でも基本的に後の遺言の方が有効であり、遺言の内容が重複しなければ両方有効となるということです。