自筆証書遺言とは
遺言には普通方式の遺言と普通方式による遺言を作成することを期待できない場合を定めた特別方式の遺言があります。
自筆証書遺言は普通方式の遺言で自筆による遺言(手書きによる遺言)です。
自筆で用紙に遺言の内容と遺言書の作成日付と氏名を書いて印を押すと完成します。
自筆証書遺言作成にあたっての注意点
自筆証書遺言は簡単に作成できますが、遺言の方式に従っていないと無効になってしまうので司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
自筆証書遺言の要件
遺言書の本文を自筆で書くこと
・自筆証書遺言は遺言の内容を自筆で書かなければなりませんが、相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合にはその目録については自書することを要しないとの改正になりました。
この場合、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にはその両面)に署名をし、押印しなければなりません。
遺言書の作成年月日をを自筆で書くこと
・作成年月日のない自筆証書遺言は無効です
・作成年月日は和暦(令和など)でも西暦(2020年)でもどちらでもOKです。
・日にちまで必ず書きましょう
令和2年11月吉日とした遺言書は無効です。
日付が特定できれば年月日で記載しなくても有効です(何歳の誕生日など)
遺言書の氏名を自筆で書くこと
・誰が遺言書を書いたかわかるように遺言書の作成者の氏名を書きましょう
・ペンネームや通称名ではなく戸籍に記載されている名前を書きましょう。
・遺言者の住所は書かなくても無効にはなりませんが、どこのだれが遺言を書いたかわかるために書いた方が無難だと思います。
遺言書に押印すること
遺言書には押印しなければなりませんが、必ずしも実印である必要はありません。
認印や拇印でも良いとした判例があります(最判平成元年2月16日)
しかし遺言書は遺言者の思いを書いている大事な書面なのでなるべく実印で押すのが良いと思います。
自筆証書遺言の書き方
相続させると書くケースと遺贈すると書くケース
①法定相続人(配偶者や子など)に財産を継がせたい場合には「相続させる」と書きます。
②相続人以外に財産を譲りたい場合には「遺贈する」と書きます。
財産の承継先の特定
財産の承継先は続柄や住所や生年月日などで特定します。
家族の場合は名前と続柄だけでも特定できるのでOKです。
続柄の例) 妻、長男、長女、次男、次女など
不動産の特定
不動産の場合は一般的に登記上の「所在」「地番」「家屋番号」で特定します。
法務局で登記事項証明書を取得するとこれらの情報は記載されています。
例)「すべての不動産」「すべての土地」「すべての建物」「●●市〇〇町△△番の土地」「●●市〇〇町△△番地 家屋番号□□番■■の建物」
預貯金の特定
銀行預金の場合は「銀行名」「支店名」「預金の種類」「口座番号」「口座名義人」で特定します。
ゆうちょ銀行の貯金の場合は「銀行名」「貯金種」「記号」「番号」「口座名義人」で特定します。
例)「〇〇銀行△△支店 普通預金」「〇〇銀行△△支店 普通預金 口座番号1234567」「ゆうちょ銀行 通常貯金 記号12345 番号12345678」など
自筆証書遺言の有効要件
遺言書の加除やその他の変更が法律に違反していないこと
加除とは名の通り文字を加えたり減らしたりすることで簡単に言うと修正ですね。
遺言書の修正は一定の方式に従わないと遺言書が無効になってしまう場合があります。
加除や変更のは遺言者がその訂正等の箇所を指示し、これを変更した旨を明記及び署名し、かつその変更の場所に印を押さなければならないと定めています。
遺言書が無効になってしまうと困るので加除や修正が必要な遺言書は新しく書き直した方が良いと思います。
遺言書が禁じられている共同遺言に該当しないこと
遺言は二人以上の者が同一の書面ですることはできません。
同一の書面で二人以上の者が遺言をすると遺言の自由や撤回を制約することになるからです。
ただし、作成名義の異なる2つの遺言者が別葉に記載され、契印がほどこされたうえで合綴されてはいるが容易に切り離すことができる自筆証書遺言について民法975条により禁止された共同遺言にあたらないとした判例があります。(最判平成5年10月19日)
遺言者の年齢が15歳に達していること
民法961条は15歳に達した者は、遺言をすることができると定めています。
まあ理由は色々言われていますが、基本的に15歳未満の人に財産があることは少ないので特に問題にならないとは思います。
遺言能力があること
民法963条は遺言者は遺言をするときにおいてその能力を有しなければならないと定めています。
遺言能力とはか遺言の内容を理解し、遺言の結果を判断できる能力です。
詐欺脅迫により書かされた遺言ではないこと
騙されたり脅されたりして書いた遺言は無効です。
公序良俗に反する遺言ではないこと
民法90条は公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とすると定めています。
これは遺言にも該当し、例えば殺人の報酬として財産を遺贈する遺言や不倫関係を継続することを条件とした遺贈の遺言などが該当します。